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大阪高等裁判所 昭和61年(行コ)45号 判決

控訴人 粟井綾子 ほか二名

被控訴人 堺税務署長

代理人 笠井勝彦 足立孝和 ほか三名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

一  当事者の求める裁判

(控訴人ら)

1  原判決を取消す。

2  被控訴人が昭和五七年九月一七日付で控訴人粟井綾子の昭和五六年分の贈与税、同粟井文隆の昭和五四年分ないし昭和五六年分の贈与税、同本多忠信の昭和五六年分の贈与税についてした決定処分及び無申告加算税の賦課決定を取消す。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(被控訴人)

主文と同旨。

二  当事者の主張

次に付加する外、原判決事実摘示と同じであるから、これを引用する(但し原判決七枚目裏一一、一二行目の「すざず」を「すぎず」と訂正する。)。

(控訴人ら)

類似業種比準方式、配当還元方式の外、純資産価額方式をも定めている評価通達は、結局株主の企業支配力の有無又は強弱により、その保有株式の価値は異なるとの観点から、非上場株式の評価方式を格別に定め、一物二価に留まらず、一物三価の原則を採用しているものであり、評価の合理性を欠く。

(被控訴人)

控訴人らの主張は争う。

なお、評価通達は、従業員持株などのような、特殊割合が僅少で会社に対する影響を持たず、ただ配当受領にしか関心のない、いわゆる零細株主が取得した株式について、その配当金額のみに着目して、特例的に配当還元方式を採用し、その評価方式の簡便化を図つたものであり、右取扱いが充分に合理性を有するものであることは明らかである。

三 証拠 <略>

理由

一  当裁判所も控訴人らの請求はいずれも理由がないと判断するが、その理由は次に付加する外、原判決理由説示と同じであるから、これを引用する(但し原判決八枚目裏一行目及び二行目のいずれも「又は」を「及び」と、同九枚目裏一二行目「多大の労力」を「複雑な計算」と、それぞれ訂正する。)。

控訴人らは類似業種比準方式、配当還元方式、純資産価額方式の三方式を定める評価通達は、一物三価を認めるものであつて、評価の合理性を欠くと主張する。しかして、上場株式については、株式市場で取引される株価が前掲原判決理由二説示の時価、即ち客観的交換価格を反映するものとして、その価格を評価することが可能であるが、本件非上場株式については右自由な取引市場は存在せず、それ故にこそ、まさに控訴人らの主張するように、同族株主の企業支配を行うことを前提とした株式の売買は、限定された範囲の者の間で行われる特殊な取引であり、また同族株主以外の者の右株式売買だからと言つて、右時価による取引が成立したとは容易に決し難いものがある。従つて、前記説示のとおり、大会社につき、類似業種上場会社の平均株価に比準して株式評価をなす方式は、一応合理性を有するものと解し得、小会社につき、個人企業の事業規模と変らないその実態から、右株式が会社財産に対する持分的性格が強いことに着目して評価を行なう純資産価額方式もまた、右合理性を認め得るものである(評価通達一七九、一八八)。そして、以上の原則的評価方式に対し、配当受領にしか関心のない、いわゆる零細株主の取得した株式の評価について、特例的に認められる配当還元方式が合理性を欠くものでないことも、原判決理由二に説示のとおりであるから、控訴人らの主張は独自の見解に基づくものであつて、採用できない。

二  以上によれば、控訴人らの請求を棄却した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却し、控訴費用につき民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 上田次郎 川鍋正隆 若林諒)

【参考】第一審(大阪地裁昭和五九年(行ウ)第一五三、一五五号ないし一五八号 昭和六一年一〇月三〇日判決)

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

一 当事者の求めた裁判

1 原告ら

被告が昭和五七年九月一七日付で原告粟井綾子の昭和五六年分の贈与税、同粟井文隆の昭和五四年分ないし昭和五六年分の贈与税、同本多忠信の昭和五六年分の贈与税についてした決定処分及び無申告加算税の賦課決定を取消す、訴訟費用は被告の負担とする、との判決

2 被告

主文と同旨の判決

二 原告らの請求原因

1 原告粟井綾子の昭和五六年分の贈与税、同粟井文隆の昭和五四年分ないし昭和五六年分の贈与税、同本多忠信の昭和五六年分の贈与税について被告がした決定処分(以下「本件処分」という。)と無申告加算税の賦課決定(以下「本件決定」という。)及び異議決定並びに国税不服審判長がした裁決の経緯、内容は別表一の〈1〉ないし〈5〉記載のとおりである。

2 しかし、被告がした本件処分(原告粟井文隆の昭和五六年分及び同本多忠信の昭和五六年分については裁決により維持された部分をいう。以下同じ。)は原告らが譲り受けた粟井機鋼株式会社(以下「訴外会社」という。)の株式(以下「本件株式」という。)の価額を過大に認定し、これと譲受価額との差額を贈与とみなしてされたものであるから違法であり、従つて、本件処分を前提としてされた本件決定も違法である。

よつて、本件処分及び本件決定の取消を求める。

三 請求原因に対する被告の認否及び主張

1 請求原因1の事実は認めるが、同2の事実は争う。

2 原告らは別表二の〈1〉ないし〈4〉欄記載のとおり訴外会社の株式(本件株式)をその従業員等から譲り受けた。なお、そのほかに原告粟井綾子及び同粟井文隆は同表〈9〉及び〈10〉欄記載のとおり同社株式を原告粟井綾子の夫であり、同粟井文隆の父である粟井寛逸から贈与を受けている(以下「受贈株式」という。)。

3 訴外会社の株式は非上場株式であり、原告らは相続税財産評価に関する基本通達(以下「評価通達」という。)一七八にいう「中心的な同族株主」に、かつ訴外会社は同じく「大会社」にそれぞれ該当するところ、評価通達一八〇に定められた大会社の株式の原則的評価方式である類似業種比準方式により本件株式及び受贈株式の評価額を算定すると、前者につき別表二の〈5〉欄記載の金額、後者につき同表〈11〉欄記載の金額となる。

4 しかして、右算定評価額は本件株式及び受贈株式の譲受時又は受贈時における時価であるところ、原告らが本件株式を譲り受けた価額は譲受時の時価に比して著しく低いから、相続税法七条によりその差額に相当する別表二の〈7〉欄記載の金額は原告らが譲渡人から贈与により取得したものとみなされる。従つて、本件株式についての同表〈8〉欄記載の差額合計額及び受贈株式についての同表〈12〉欄記載の受贈額を併せた金額(ただし、原告本多忠信に関しては前者のみ。)が贈与税の課税価格となる。

よつて、本件処分に違法はない。

5 原告らは係争各年分の贈与税の申告書を被告に提出しなければならなかつたにもかかわらずこれを提出せず、このことにつき国税通則法六六条一項ただし書の正当な理由も存しない。従つて、本件決定にも違法はない。

四 被告の主張に対する原告らの認否及び反論

1 被告の主張2及び8の事実は認める。

同4の事実のうち受贈株式に関する課税価格は認めるがその余は争い、同5の事実は争う。

2 訴外会社は従業員持株制度を採用しているため、昭和五二年証券会社に発行株式の売買適正価額の評価を委託する一方、従業員等を含む株主全員に対し売買希望額についてのアンケートを求めたところ、額面の三倍程度の価額が妥当であるとの意見が過半数であつたことから、それ以降はおおむね額面の三倍の価額をもつて、退社に伴い株式売却を希望する従業員とその取得希望者との仲介の労をとり現在に至つている。本件株式の譲受価額は売買当事者が対等で自由な立場に立ち、主張すべきところを主張し、双方の合意によつて決定されたもので正常な売買に基づく適正な価額であるから、相続税法七条の著しく低い価額に該当しない。

なお、有償取引行為を対象とする規定である同法七条の時価は、無償による財産の移転を前提とする同法二二条の時価とその意義を異にするから、前者の評価は評価通達によるべきではなく、具体的事例に即し社会通念に従い、同法七条の目的に照らしてなされるべきである。

3 相続税法における贈与概念は民法からの借用概念であるから、その意義は民法における定義と同一でなければならず、従つて贈与者の財産減少と受贈者の財産増加が必須であるが、本件株式の譲渡人らは、同人らが株式を取得する場合の評価方式である配当還元方式による評価額よりも高額である、額面のおおむね三倍の価額で本件株式を譲渡したから、同人らの財産減少は見られず相続税法七条の適用はない。このことは、贈与税が相続税の補完税としての機能及び存在意義を有することからも根拠づけられる。

4 財産評価理論は本来流動的であるべきにもかかわらず、被告は評価通達を金科玉条として財産評価方式を固定化し、その評価理論をもつて法解釈を行うという不当な論理構成をしている。そのために、同族株主は非同族株主から株式を譲り受けるに際し、低額で譲り受けて贈与税を納付するか、低額譲受可能な株式をあえて高額で譲り受けるかの二者択一を迫られることとなり、元来合理性を旨とする財産評価がこのような不合理な取引を強要し、また、租税法が私的経済取引を規制する結果に至つている。被告のかような態度は非常識の上に成り立つているとのそしりを免れない。

5 非上場株式以外の財産についてみると、〈1〉客観的に時価の異なる土地を主観的には等価とみて交換した場合に所得税法五八条(固定資産の交換の場合の譲渡所得の特例)の適用があり、〈2〉借地権者が地主に対し借受土地を無償又は著しく低い対価で返還しても、これに対し地主に贈与税は課されないことになつているが、〈1〉は当事者間の合理的な事情により、〈2〉は当事者間の力関係によつて土地の時価又は借地権割合が変動すること、換言すれば通達の定めが修正され又は適用されない場合があることを示している。かように、自由な取引市場が存在する土地についてでさえ時価概念が弾力的に解釈されているのであるから、非上場株式の時価についてはより弾力的な時価の解釈がされてしかるべきである。

6 仮に、相続税法七条の時価と同法二二条の時価の意義に差異はなく、本件株式についても評価通達によつて価額を評価できるとしても、類似業種比準方式による価額は同族株主の有する企業支配力を前提とするもので、その市場は相対的に限定され、かつその価額は同族株主にして初めて認識しうる主観的な価値にすぎないから(この意味で不動産鑑定評価基準にいう限定価格に近い。)、右方式により価額を評価するのは相当でなく、不特定多数の者である同族株主以外の者が有する株式の評価のために適用される配当還元方式による算定価額が同法七条の時価とされるべきである。原告らは右時価よりも高額である額面のおおむね三倍の価額で本件株式を譲り受けたから、右価額は著しく低い価額ではない。

なお、本件株式は原告らが取得したのに伴い、右時価又は譲受価額よりも高い類似業種比準価額の価値を有するに至つたが、このように本件株式の価額が増加したのは、本件株式が原告らの既に保有する企業支配力のある株式と一体となることによつて価値を増したためである。これは、所有者及び時価の異なる隣接土地が同一人の所有に帰した結果、時価がより低かつた土地も一体の土地としての効用を発揮し、その価値を増して高額となることがあるのと同様であつて、何ら異とするに足りない。

7 評価通達の取扱いは、同族株主がその保有株式を親族に贈与する場合に、直接その親族に贈与せず、間に非同族株主を介在させて贈与税のほ脱を図ることを防止する必要性をもつてその根拠としているが、租税回避の防止は当該行為が仮装行為か否かの事実認定の問題として解決すべきである。

8 取引相場のない株式の額面価額での譲受けが低額譲受けであるとして贈与税を課されたが裁決により取消された事例があるのに、額面の三倍価額で譲り受けた原告らが課税されるのは権衡を失する。

五 原告らの反論に対する被告の再反論

本件株式の譲渡価額が適正であるとの主張は争う。証券会社による評価価額は本件株式の売買において活用されていないし、また売買価額が合理的であるか否かは当事者からの異論や苦情の有無とは無関係である。なお、相続税法七条の時価が同法二二条の時価とその意義を異にするとの主張は原告ら独自の見解で失当である。

本件株式の譲渡人は類似業種比準方式による評価額でこれを譲渡しえたにもかかわらず、それより低額でこれを原告らに譲渡したことになるから、譲渡人に財産の減少が見られ、贈与の定義に符合する。

租税が私的経済取引を規制し又は決定する機能を有することは、現実の取引において否定できない。

配当還元方式は簡便性等を考慮した特例的評価方式にすざず、類似業種比準方式が原則的評価方式である。また、評価通達にいう不特定多数の当事者とは、例えば証券取引所に上場されて日々大量取引が行われている上場株式の譲受人等をいうのであり、原告らの反論6中の同族株主以外の者はこれに該当しない。

原告ら引用の取消事例は、評価会社の事業内容が日用品の卸売であるのに、原処分が事業の異なる呉服、洋品の販売を主とする業種を類似業種に選定して評価したため、評価方法に問題があつた事例というべきもので、本件とは事案を異にする。

六 証拠 <略>

理由

一 請求原因1の事実(本件処分等の経緯、内容)、被告の主張2の事実(原告らによる訴外会社の株式の譲受又は受贈)、同8の事実(譲受又は受贈株式の評価通達適用による評価額)、同4の事実中受贈株式に関する課税価格については当事者間に争いがない。

二 相続税法七条によれば、著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合においては、その財産の譲渡があつた時において、その対価とその財産の時価との差額に相当する金額を、その財産を譲渡した者からその譲渡を受けた者が贈与によつて取得したものとみなされて、贈与税が課されるところ、右時価とは、課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいうと解される。

しかして、評価通達は、大量の事務を統一的に処理するために、相続税及び贈与税の課税価格計算の基礎となる財産の評価に関する基本的な取扱いを国税庁長官が定めたものであるが、同通達の一七八ないし一八四は、取引相場のない株式の評価方法につき基本的にはその発行会社の規模(大会社、中会社、小会社に三分。)及び相続人又は受贈者の態様(同族株主等か否か。)の組合せにより場合を分け、同族株主のいる大会社については、原則として類似業種比準方式(評価会社とその事業内容が類似する上場会社(以下「類似業種」という。)の平均株価に、一株当りの配当金額、利益金額及び純資産価額の類似業種に対する評価会社の比準割合を乗じて算出した比準価格に、更に計数化の困難な他の要素の影響及び評価会社の株式の非流通性を考慮して七〇パーセントを乗じた価額を評価会社の株式の評価額とするもの。)により、中心的な同族株主以外の同族株主が株式を取得する場合で取得後の持株比率が五パーセント未満のときと同族株主以外の株主が株式を取得する場合には、特例として配当還元方式(株式一株当りの券面額に年平均配当率を乗じ一〇パーセントで除した価額をその株式の評価額とするもの。)によることとされている。

評価通達がこのように取引相場のない同族株主のいる大会社の株式について株式取得者の事実上の支配力の有無により評価方式を異にしている理由は、右会社のすべての株式価額は本来類似業種比準方式により算定されるべきであるが、これには多大の労力を要しかつ一般的に算定価額がかなり高額になることから、持株割合が僅少で会社に対する影響力を持たず、ただ配当受領にしか関心のないいわゆる零細株主が取得した株式について右方式により算定することは適当でないため、このような株主の取得する株式の評価は特例として簡便な配当還元方式によるものとしたことにあると考えられ、従つて、一つの評価対象会社につき二つの株価を認めた訳ではなく、あくまで当該株式の時価は類似業種比準方式により算定される価額によるものというべきである。なお、右のような取扱いの結果、零細株主は時価より低い評価額で課税され利益を得ることとなるが、前記のような合理的理由に基づく以上、右取扱いを違法とまでは断じ難い。

ところで、類似業種比準方式による算定は一応合理的と思料され、これにより算定された本件株式の譲受時の評価額は別表二の〈5〉欄記載のとおりとなり(この事実は当事者間に争いがない。)、これが本件株式の時価であるから、本件株式譲受価額の時価に対する割合は同表〈6〉欄記載のとおりであり、これによれば本件株式譲受価額は著しく低いというべきである。従つて、別表二の〈8〉欄記載の差額合計額が贈与とみなされ、なお受贈株式の評価額については争いがないので、結局、同表〈13〉欄記載の金額が原告らの係争各年贈与税の課税価格となる。

三 原告らは、本件株式譲受価額は自由な立場に立つ売買当事者の合意に基づく適正な価額であると主張するが、同一会社の従業員と同族株主という限定された当事者間の合意に基づく価額は不特定多数の当事者間での自由な取引とはいい難く、また証券会社による評価価額が価額決定の参考とされていないことからしても、これをもつて適正な価額であるということはできない。なお、相続税法七条の時価が同法二二条の時価とその意義を異にするとの明文の規定は同法中に見当らず、かつそのように解すべき明白かつ合理的な理由も存しないから、両概念の内容が異なるとの原告らの主張は失当である。

原告らは、本件株式の譲渡は譲渡人らに財産減少が見られないから贈与概念に符合せず、相続税法七条の適用がない旨主張する。しかし、譲渡人らが時価よりも低額で本件株式を取得しえたとすればそれは前述のとおり評価通達の特例的取扱いに基づくものであり、本来右株式の時価は原則的な類似業種比準方式により算定されるべきものであるから、譲渡人らは別表二の〈5〉欄記載の評価額の株式をより低額な同表〈4〉欄記載の金額で譲渡したことにより、その差額分だけ同人らの財産は減少したといえる。よつて、原告らの主張は失当である。

原告らは、評価通達が固定的に適用されると、納税者は不合理な経済取引を強要されることになると主張する。しかし、原告らの主張の前提である同族株主が低額譲受けできる株式をあえて高額で譲り受けることになるとの点は、既述の如く同族株主が株式を低額譲受けできる理由はないのであるから原告らの誤解に基づくものであり、結局原告らの主張は前提を欠き失当である。

原告らは、不動産の等価交換及び借地権の無償返還又は低額譲渡を通達の修正又は不適用事例として挙げ、非上場株式の時価概念は弾力的に解釈されるべきであると主張する。しかしながら、相続税法上の時価は相続税贈与税課税の基底に存する重要な概念であつて、法的安定性及び公平取扱いに寄与するものであるから、できるだけ客観的に把握されるべきであり、原告らの挙げる事例と同一には論じられない。具体的妥当性はむしろ著しく低い価額の対価に当るか否かの判断において追求されるべきである。

原告らは、類似業種比準方式により算定される価額は同族株主の有する企業支配力を前提とする主観的な価値にすぎず、配当還元方式による価額が時価とされるべきであると主張する。しかし、評価通達適用上取引相場のない同族株主のいる大会社の株式の時価はより合理的と認められる類似業種比準方式により算定された価額によるのであつて、配当還元方式は特別の理由による特例的取扱いであることは既に述べたところである。また、原告らは本件株式の価額が原告らの譲受けにより増加したというが、これは同一株式に二つの時価を認める立場を前提とするものであり採用できない。結局、原告らの主張は失当である。

原告らは、同族株主による贈与税ほ脱の防止は評価通達の取扱いによつてではなく事実認定の問題として解決すべきであると主張する。しかし、原告ら取得株式の価額は非同族株主が介在すると否とに関係なく、常に原則的評価方式により算定されるべきものであり、これは贈与税ほ脱の防止を根拠とするというよりも評価理論自体の帰結するところであるから、原告らの主張は失当である。

原告らは、本件は裁決による取消事例との権衡を失すると主張する。<証拠略>によれば、右事例は、非同族会社の社長が退職従業員から取引相場のない同社の株式を額面価額で譲り受けたことが低額譲渡に該当するとして贈与税の決定処分がされたが、裁決で取消されたものであることが認められるが、取消の理由としては、評価通達適用に疑問が呈されたこともあるものの、原処分庁が、評価会社の事業内容が日用品卸売であるのに、事業を同じくする類似会社がないため、事業の異なる呉服、洋品の販売を主とする業種を類似会社に選定して評価額を算出したことの不合理性が問題とされていたことも認められ、本件とは事案を異にするというべきであるから、原告らの主張は失当である。

四 以上によれば、本件処分に違法はなく、従つて本件決定にも違法はないから、原告らの請求はいずれも失当である。

よつて原告らの請求をすべて棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 青木敏行 古賀寛 古財英明)

別表 <略>

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